誰もが簡単に新型コロナワクチンの持続効果を測れる!『新型コロナ“抗体”測定サービス』誕生ストーリー
九州大学の技術をもとに2018年4月に福岡で創業したKAICO株式会社(以下、KAICO)。蚕の体内で自在にタンパク質を作って新薬を開発するという、かつてないビジネスに挑戦しています。
2020年に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミックが起きました。KAICOは製薬企業等から受託してタンパク質を作っていますが、当時はその案件の多くがペンディングに。そんな中、自社オリジナル製品として開発されたのが『COVID-19抗体測定サービス』でした。2021年9月リリース後、約半年間で1万個以上を販売しています。
KAICOが『COVID-19抗体測定サービス』を開発した背景、自社初のBtoCサービス構築で遭遇した数々の困難と、それを乗り越えた方法について、サービス開発者であるKAICO研究開発責任者の谷口雅浩さんに話を伺いました。
COVID-19 “抗体”測定サービスとは
“抗体”測定サービスとは、COVID-19のワクチンを接種したあとで、抗体(免疫)が出来ているか?保持出来ているか?を検査するサービスです。現在広く行われているPCR検査や抗原検査とは違い、検査時点に「COVID-19に罹患しているかどうか」ではなく、「COVID-19に対する抗体をどの程度保持できているか」を把握することができます。
利用方法としては、自宅で簡単に採血してポストに投函するだけで、1週間程度で検査結果をWebで確認することができ、病院で採血をする従来の方法と比較すると非常に簡便です。
(抗体測定サービスの利用手順)
KAICOの抗体測定サービスでは抗体の有無だけでなく「抗体レベル(5段階評価)」を把握することができるので、ワクチンの有効性がどの程度残っているのかが確認できます。また継続的に検査することで、個人差のあるワクチン接種後の抗体量推移が簡単に把握でき、次のワクチン接種時期を判断する目安にもなります。「実は久々に6月下旬ベトナムへ出張したのですが、出張が決まった瞬間に自分の抗体レベルを測定してみました。ワクチンは2回までしか接種していなかったのですが副反応が辛く、その後に測定した抗体レベルも『5』と高かったので様子を見ていたのです。でもベトナム出張前は『3』まで下がっていて、即座に(ワクチン)3回目を接種しました。やはり海外で入院とかしたくないですしね。3回目接種後は抗体レベル『5』に戻ったので、安心してベトナムに行けました。ただワクチンの副反応がある中での海外出張準備は辛かったですけど(笑)」(谷口)
サービス開発のきっかけ
サービス開発の始まりは、2020年5月、KAICOの技術導出元である九州大学主導で進めていたCOVID-19のスパイクタンパク質(Sタンパク質)開発の成功でした。当時、KAICOと九州大学はある動物薬メーカーとの共同研究で偶然にも豚のコロナウイルスのワクチン開発を行っており、その経験から、COVID-19の感染拡大から僅か2か月で、Sタンパク質の発現・生産に成功したのです。ワクチン開発を目指すKAICOとしては、このSタンパク質をワクチン原料にしたい!という思いで製薬メーカー等へ売込みを図りましたが、創業後間もなく無名のベンチャーであったKAICOは、その壁を突破することができませんでした。
でも、ベンチャーは七転び八起きです。すぐに発想を切り替え、Sタンパク質を使って社会のために何かできないかと考え始めました。自社内で検討するには限界があると考え、Sタンパク質をどのような形で活用できるか、製薬メーカーだけでなく様々なお取引先に相談していたところ、検査薬キットの開発を行っている企業から、抗体測定に活用できるのではないかとのアドバイスをいただいたのです。早速その企業と協業し、KAICOから検査に必要なSタンパク質を提供し、検査薬キットはそのパートナー企業が製造販売を行う、というビジネスモデルでのサービス提供がスタートしました。ところが、“抗体”検査という行為そのものの価値がなかなか市場に浸透せず、パートナー企業が販売する検査キットの売れ行きがあまり良くなかったのです。
「いろいろな場所で製品説明をさせいただいて、反応が良かったので、需要はあると思っていました。そんな時、ある関係者から『自分たちで販売してみたら?』と言われたんです。当時は企業からの受託での生産しかしていなかったので、自分たちで一般消費者向けの最終製品を作るなんて考えてもみませんでした。」(谷口)
初めての一般消費者向け製品開発に悪戦苦闘
(開発当時を振り返るサービス立ち上げメンバー)
自分たちで販売してみよう!と決めたはいいものの、KAICOで初めての一般消費者向けサービスの構築です。当時バイオ系の研究者しかいなかったKAICOにとっては、本当に困難の連続でした。社内で抗体測定サービスプロジェクトを立ち上げ、メンバーで役割分担をしながら、サービス提供に必要なWebシステムの開発、パッケージデザイン、キット内容物の最適化や調達、製造ラインの確保、流通・販売ルートの整備、お客さまサポートなど、すべて1から立ち上げていきました。「例えばパッケージデザインは、当時KAICOに中途入社して間もなかった品質管理担当メンバーに担当してもらいました。彼は『(バイオベンチャーに)転職してこんなことをするなんで思っていなかった。でも、実際に店頭に並んでいるのを見ると、嬉しい』と話していて。メンバーみんなでサービスをつくり上げることができたなと感じています。」(谷口)
サービス開発の中で特に苦労したのは、「製品の価格設定」と、抗体レベルを5段階で数値化するための「計算アルゴリズムの設定」です。
「製品の価格設定」では、病院での抗体測定の半分程度の価格でエンドユーザーの元に届けたい、という思いがありました。サービスの一連のフローの中で、最もコストがかかるのは検査工程でしたが、測定に用いるSタンパク質を自社で生産できる強みを生かし、コストと価格を抑える製品にすることができました。
「計算アルゴリズムの設定」は、抗体の測定結果をいかにわかりやすくするか、という点にフォーカスして検討を重ねました。というのも、測定結果を数値でフィードバックしても、それが高いのか低いのか、ユーザーが判断できる一般的な指標がまだ世の中にはありません。そこでKAICOのサービスでは、抗体価を5段階のレベルで表示することにしました。
(検査結果画面イメージ)
リリース後約半年間で1万個の販売達成!利用者の声に感じる手ごたえ
苦労しながらも作り上げたサービスは、2021年9月にまずは福岡県内限定での販売開始となりました。当時はCOVID-19ワクチン2回目の接種が進んでいる時期で、ワクチンの有効性や副反応に関心が集まっていたため、福岡のメディアに多く取り上げていただきました。その結果、初回ロットは販売初日に品切れとなり、その後追加生産を行いながら、リリースから約半年間で1万個の販売を達成することができました。
サービスリリースから1年が経ち、有難いことにリピーターも増えています。「利用者からは、『海外出張が再開したが、感染の不安があり、渡航前に抗体価を確認するのに利用した』『遠方に住んでいる高齢の両親と旅行をしたいと思っていたが、抗体測定を利用し、安心感をもって旅行に踏み切れた』などの声をいただき、手ごたえを感じています。」(谷口)
利用シーンが増えてきたことで、新たな課題も出ました。それは企業利用への対応です。接客等を行う企業や介護施設等から、従業員向けにこのサービスを利用したいとの声をいただきました。現在はシステムを一部改良し、希望企業には健康診断のように、従業員の検査結果を企業側が把握できるようにしています。
オミクロン株対応の新サービスのリリースを予定
COVID-19の感染拡大は第7派となっていますが、正常化や次なる感染拡大に備えて、政府はオミクロン株対応ワクチンの接種開始を10月の予定から更に前倒しすると発表しました。私たちもそれに合わせ、オミクロン株対応の新サービスリリースを準備しています。というのも、これまでのワクチンは当初に流行した武漢株に対応していたため、私たちのサービスでも武漢株の抗体価を測定していました。「新サービスでは、現在猛威をふるっているオミクロン株に対する抗体価を測定できるようになります。これにより、より利用者のニーズに応えられるサービスになると考えています。」(谷口)
(研究開発風景)
またKAICOではサービス性能試験のために協力者27名の追跡調査を実施しています。そのデータから、ワクチン接種後の抗体の保持レベルは個人差が大きく、例えば2回目のワクチン接種後でも抗体レベルが2までしか上がらない方もいらっしゃいました。しかしながら3回目のワクチン接種後は、すべてのサンプルでレベル5となっており、追加接種の効果が非常に高いことが伺えます。追跡調査はオミクロン株対応の新サービスでも実施予定で、協力者のCOVID-19罹患履歴と共に、武漢株との違い等を見ていきたいと考えています。
*1: 測定結果は、イムノクロマト法の抗体の保持有無を提示するのではなく、E L I S A法によって得られた詳細数値を5段階のレベル表示として開示します。このレベル表示は、製品性能試験のデータを元にした平均値を目安としています。
レベル1:未接種の人が多いレベル
レベル2:ワクチンを1回接種した人が多いレベル
レベル4:ワクチンを2回接種した人が多いレベル
レベル5:ワクチンを3回接種した人が多いレベル
*2:性能試験のために協力者27名の抗体レベルを評価しています。この追跡データではワクチン接種後の抗体獲得量や、その後の抗体量の減少に個人差があることが見られます。
抗体測定サービス開発成功から得たもの
シーズの研究開発から商品化までを一気通貫でできたことは、KAICOにとって非常にいい経験になりました。「受託事業とは違い、一般消費者向けの商品開発は、市場ニーズを直に感じることができるので、そのニーズをきちんと汲み取ってまた研究開発につなげる、いい循環が生まれそうです。また、ベンチャーだからこそのチャレンジ精神や、ダイレクトに物事が進んでいく、そのスピード感は、これまでに経験したことがないものでした。」(谷口)
私たちは九州大学発ベンチャーとして「大学の価値(研究成果)を社会の価値へ」というビジョンを掲げています。本プロジェクトを通じて、アカデミックシーズだったSタンパク質を「抗体測定サービス」という一般消費者が手に取れる価格帯の製品に変えて社会に還元することができ、大学発ベンチャーとしての存在意義を改めて実感しています。
(KAICOメンバー写真)
◆KAICO創業ストーリーはこちらから
【商品・サービス情報】
※この新型コロナウイルス「抗体測定サービス」キットセットは、医療機器・サービスではなく研究用製品です。医薬品医療機器等法に基づく体外診断用医薬品ではありませんので、ワクチン接種の推奨、回避を医学的に判断するものではありません。このサービスは、研究や調査を目的としたものです。
※この「抗体測定サービス」キットセットは、新型コロナウイルスへの感染有無を調べるものではありません。