ついに届いた!
2024年6月下旬、6000頭もの繭を纏った蚕が入った段ボール箱が、長野県から遥々九州福岡県のKAICO株式会社(以下、KAICO)に届きました。段ボール箱は3箱で、その中にはそれぞれ2000頭の美しい繭が入っていました。
KAICOは今年3月に長野県駒ヶ根市と「養蚕業の復興と地域創生に貢献し、蚕の供給を目的とした協定」を締結し、その協定に基づき駒ヶ根市が5月から飼育を開始した蚕の繭が、KAICOに届いたのです。
そして、その蚕の調達担当は、社会人3年目、昨年10月に入社したばかりの私(伊藤雅治)でした。
入社1週間で調達担当に
私は大学卒業後、新卒で通信系ネットワーク構築の会社に入社しましたが、自分のやりたいことに挑戦したいと考えて昨年10月にKAICOに転職しました。丁度この頃、これまでKAICOに存在しなかった蚕の調達という新たなプロジェクトが始まり、蚕の知識が全くない入社1週間の私が、その主担当に任命されてしまいました。その時すでにKAICOと駒ヶ根市とでは蚕の供給についての協議が開始しており、担当となった私はわけもわからないまま駒ヶ根市に訪問することとなりました。何度も駒ヶ根市に赴き、ある冬の日には大雪で飛行機が半日も遅れ、予定していた市長との面談を翌日にずらさざるを得なくなってしまったこともありました。それでも、少しずつ蚕のこと、会社のことを勉強しながら、精力的に商談を続け、そしてついに、今年3月にKAICOと駒ヶ根市との間で「駒ヶ根市とKAICO株式会社との駒ヶ根シルクミュージアム新プロジェクトに関する地方創生に向けた連携協定」が締結されました。
なぜ蚕が必要なのか?
私が転職先として選んだスタートアップ企業KAICOは、蚕の蛹を用いて創られたワクチンを、注射型ワクチンではなく経口型ワクチンとして世界に届け、人々を幸せにし、かつ地球環境にも優しい事業を実現しようとしています。
新型コロナウイルスにおけるパンデミックは記憶に新しいですが、注射型のワクチンは医療従事者不足、冷凍庫等のコールドチェーンの整備不十分、高価格などの理由で途上国では使用が困難でした。一方、KAICOが開発している経口ワクチンは常温輸送・常温保存が可能なので、そのような国、地域でも十分使用可能となります。人用ワクチンとして使用が可能になるには未だ長い時間がかかりますが、2020年から開発を始めた動物用(豚)の経口ワクチンは、今年、2024年に飼料添加物としてベトナム市場で実用化されます。その後、養殖魚や愛玩動物にも対象を拡大し多国展開していく計画であり、計画を実現するためにKAICOは今後大量の蚕が必要となります。
なぜ連携協定なのか?
KAICOの経口ワクチン事業を実現するため、4年後には年間1500万頭以上の蚕が必要になります。しかし現在、日本全体で生産されている蚕の量は約2550万頭です。かつて、明治時代の日本では、最大の輸出品は蚕の繭であり、蚕の総生産は年間40万t (約2000億頭)でした。そして産業構造の変化により養蚕農家が激減した現在、蚕の総生産量は年間51 t (約2550万頭)となり、最盛期のわずか0.01%程度しか生産されなくなってしまいました。また、養蚕農家の6割が70歳以上と高齢化も進んでおり従来の個人営農による小規模養蚕では今後の増産が見込めません。このような養蚕業界の現状を考えると、KAICOが近い将来必要とする量を賄うことは到底不可能です。そこでKAICOは各自治体及び民間企業と協力して新しい養蚕業を創造することで、蚕の必要量を確保することを目指しています。この養蚕業復興プロジェクトは地域経済活性化及び地方創生に寄与することをも目的にしており、その第一弾として、長野県駒ヶ根市にて本プロジェクトがスタートしたわけです。
*出典:農林水産省 蚕糸業をめぐる事情 https://www.maff.go.jp/j/seisan/tokusan/sannshi.html(1頭=2gで換算)
駒ヶ根市では旧教員住宅を活用
長野県駒ヶ根市はかつて一大養蚕地として知られていました。しかし個人の養蚕農家は既になくなっており、このプロジェクトを始めるに際しては空き家となっていた旧教職員住宅を利用することになりました。その一軒家は大きな改装工事を行うことなく、低コストで効率的な養蚕事業を開始しました。初年度となる今年は駒ヶ根市の施設である駒ヶ根シルクミュージアムの職員と地域おこし協力隊が中心となり養蚕を行ないますが、将来は福祉施設のデイサービス近くで養蚕を行い、デイサービス利用の高齢者が飼育を行うことも検討しています。また公民館にて市民向けに蚕に関する講座を開講することで養蚕業への関心も持たせる取り組みを行ったり、障害者雇用の一環として蚕の飼育委託も検討したりと、地域独自の福祉の充実と地域振興を融合させた新養蚕業を考えています。
このプロジェクトの中心を担っているのが、駒ヶ根シルクミュージアムの館長である伴野豊先生です。伴野先生は元々九州大学教授(現在は名誉教授)であり、同大学において伝統的な養蚕の飼育及び研究を行ってきた人物です。同先生が九州大学を退官され故郷である長野県の駒ヶ根市シルクミュージアムの館長に就任されたのが縁となり、駒ヶ根市とKAICOの関係ができたのです。
私は大学での伴野先生は知りませんが、館長となった伴野先生からは、蚕の豊富な知識と、蚕への愛の深さを感じ、いつも尊敬の念を抱いています。
駒ヶ根シルクミュージアム館長 伴野豊先生コメント
駒ヶ根シルクミュージアムでは、地域活性化のために繭クラフトの利用を考えていました。繭クラフトでは、繭のみを使い、中の蛹は不要です。KAICO株式会社さんでは蛹を必要としていることを知っていましたので、これは結び付けるしかないと提案しました。プロジェクトの推進は順調に進み、初出荷となりました。地域、大きくはヒトのくらしの中でカイコが再びフォーカスされるよう微力を尽くしたいと思っています。
養蚕復興プロジェクトを全国へ
駒ヶ根市という自治体との包括協定に並行して、KAICOでは、今年4月に農業法人である株式会社鈴生(以下、鈴生)とも「新たな養蚕業による地域経済の活性化と地域振興に向けた協定」を締結しました。
鈴生はコンテナハウスを利用したソーラーシェアリング養蚕施設を用いて養蚕を行い、ジョブコーチ支援として障害者も蚕を飼育できる環境にすることで雇用創出を生み出す環境を作ります。また蚕の飼育を1年通して行うため、空調を設置し温度管理を行います。コンテナハウスの上部分にはソーラーパネルを設置することで自社発電を行い、そのエネルギーで空調等ハウス内のエネルギーコストを補填します。そして外には蓄電池を設置し、余ったエネルギーで地域の車や携帯電話を充電できるようにすることで、災害時の防災施設として利用できる仕組みとなる予定です。
KAICOは世界中に経口ワクチンを届けるため、自治体や企業と共に、その地域や環境に合った各々の取り組み方で地域創生を絡めた新しい養蚕業を目指しています。
私が入社2週目から始めた養蚕業復興プロジェクトは、少しずつ形となってきました。この養蚕業復興プロジェクトは、地方創生やカーボンニュートラルに貢献できる仕組みです。私は現在、駒ヶ根市や鈴生に続く次の自治体、企業、そして組織と話を進めていますが、終わりはありません。何故なら、この新しい養蚕業はKAICOの取り組みですが、関係するみなさんが幸せになれるプロジェクトだからです。多くの方々に知って貰いたい。一緒に協業して貰いたい。そしてKAICOの経口ワクチンを世界中に届ける、この革新的な事業に私たちと一緒に挑戦して貰いたい。入社して9ヶ月、短くも濃い経験をさせていただいた私が今、心から願っていることです。
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