タンパク質とは
私たちKAICO株式会社では昆虫のカイコを用いて様々なタンパク質を作っています。今回は、生命科学の中心的存在ともされる「タンパク質」について概要を紹介いたします。
そもそもタンパク質とは?
タンパク質は、私たちの体を構成する主要な成分の一つです。アミノ酸が鎖状につながった高分子化合物であり、20種類の標準アミノ酸の組み合わせにより、無限の可能性を秘めています。髪の毛、爪、筋肉、そして血液の中にも、たくさんのタンパク質が存在します。
タンパク質の構造は、一次構造(アミノ酸配列)から始まり、二次構造(αヘリックスやβシート)、三次構造(全体の折りたたみ)、そして場合によっては四次構造(複数のサブユニットの組み合わせ)まで階層的に形成されます。
この複雑な構造が、タンパク質の多様な機能を可能にしています。例えば、酵素の場合、その触媒機能は活性部位の特異的な立体構造に依存しています。活性部位は、一次構造では離れているアミノ酸残基が、折りたたみによって空間的に近接することで形成されます。
機能の一例
- 酵素:基質特異性を持ち、化学反応の活性化エネルギーを下げることで反応を促進します。 例:リボヌクレアーゼは、RNAを分解します。
- 輸送タンパク質:特定の分子と結合し、細胞内外で物質を運搬します。 例:ヘモグロビンは、酸素と結合して全身に運びます。
- シグナル伝達:細胞間や細胞内でシグナルを伝達します。 例:インスリン受容体は、血糖値の調節に関与します。
- 構造タンパク質:細胞や組織の形態を維持します。 例:ケラチンは、髪の毛や爪の主成分です。
- 防御タンパク質:外敵から体を守ります。 例:抗体は、特定の抗原と結合して免疫応答を引き起こします。
タンパク質の合成は、セントラルドグマに基づいて行われます。
- 転写:DNAの情報がmRNAにコピーされます。
- 翻訳:mRNAの情報を基に、リボソーム上でアミノ酸が連結されます。
- 翻訳後修飾:合成されたタンパク質に化学的修飾が加えられることがあります。 例:リン酸化、糖鎖付加、ユビキチン化など
タンパク質研究 最近のトピック
- 構造生物学の革新
クライオ電子顕微鏡(クライオEM)の登場により、これまで構造決定が困難だったタンパク質や複合体の構造解析が可能になりました。2017年のノーベル化学賞のテーマにもなっています。
- 立体構造の予測
タンパク質がどのようにして正しい立体構造を形成するかは、長年の謎でした。しかし、Google DeepMindが発表したAlphaFoldのような人工知能を用いたアプローチにより、タンパク質の構造予測の精度が飛躍的に向上しています。
2024年5月には最新版のAlphaFold 3が発表されています。
- 相分離生物学
液-液相分離(Liquid-Liquid Phase Separation, LLPS)という現象が、細胞内でのタンパク質の振る舞いを理解する新しい視点を提供しています。これは、膜のない細胞内小器官の形成メカニズムの解明につながると期待されています。
タンパク質と疾患
タンパク質の異常は、様々な疾患と関連しています。
- アルツハイマー病:アミロイドβタンパク質の異常凝集
- 嚢胞性線維症:CFTR膜タンパク質の変異
- 鎌状赤血球症:ヘモグロビンタンパク質の構造異常
これらの疾患メカニズムの解明は、新たな治療法の開発につながる可能性があります。
KAICOが作るタンパク質
タンパク質は、大腸菌や酵母、昆虫細胞、動物細胞など様々な発現系で生産することができます。
カイコ-バキュロウイルス系は、カイコ自体をバイオリアクターとすることで、従来の大腸菌や酵母など微生物細胞や培養細胞と比較して、組換えタンパク質の高い発現成功率が期待できます。そのため、それら他発現系では生産困難なタンパク質でも生産できる可能性があります。
KAICOでは、九州大学オリジナルのバキュロウイルスゲノムやカイコ生体を利用した「カイコ-バキュロウイルス発現法」をコア技術に、カイコ蛹の体内で目的のタンパク質を作ることができます。
まとめ
タンパク質は、生命活動の中心的な役割を果たす分子です。その構造と機能の理解は、生物学、医学、薬学など多岐にわたる分野で重要です。
KAICOでは、カイコの中に存在する「タンパク室」を借りて、ワクチンや診断薬の研究開発に活用できる多種多様なタンパク質を生産しています。カイコで作ったタンパク質、その先の医薬品を世界に届けるべく、私たちは研究開発に勤しんでいます。
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