九州大学農学研究院における世界唯一のカイコバイオリソースライブラリー

カイコ-バキュロウイルス発現系は、真核細胞で最も効率の良いタンパク質生産系として知られる。 カイコはあらゆる動物の中でもっとも家畜化されたものであり、生理活性物質生産系の宿主として捉えた場合、いくつかの特筆すべき利点がある。

(i)大量飼育が可能な唯一の昆虫種であり、一頭一頭が小さな昆虫工場である。これは、大量生産に向けたスケールアップが煩雑な条件検討なしに実施でき、高度なバイオリアクター設計が不必要である。

(ii)昆虫を利用した組換えタンパク質の生産は、哺乳類に近い修飾を受けたタンパク質を得られる上に発現量が高い。

(iii)昆虫個体を用いる生産系は、昆虫細胞を用いる場合より、微生物汚染が少なく、生産条件の制御が容易である。



カイコ-バキュロウイルス発現系は、分泌性タンパク質、膜タンパク質、細胞質、オルガネラ局在タンパク質などのすべての種類のタンパク質の発現が可能であり、九州大学のカイコバイオリソースでは、すでにこれらタンパク質の種類に応じた大まかな好適系統を見出しており、必要に応じて生産に好適な系統をスクリーニングし、育種するシステムを確立している。 分泌性タンパク質や膜タンパク質は、その毒性(強い生理活性)や特殊な構造により遺伝子組換えカイコの胚性致死や絹糸タンパク質分泌に特化した絹糸腺での分泌不全を引き起こすことが多く、組換えカイコでは発現が困難なものが多い。 また、市販のカイコ系統では、バキュロウイルス発現系を用いたとしても、発現量が九州大学の好適系統の1/10以下の場合が多い。このような系統ライブラリーを利用した標的タンパク質に応じた最適な系統の選抜、発現タンパク質の質的および量的改変を網羅的かつ迅速に実施できる。

カイコの唯一の突然変異体資源が九州大学にあり、機能性タンパク質生産における宿主としての視点から、世界に先駆けて系統整備と体系的な選抜育種を行ってきた。
多くの系統は、半世紀以上の交配記録(血統書:系図)が管理されており、宿主としての品質すなわち、均一性、安定性が担保され、将来にわたって安定な供給が保証されている。 実用化を視野に入れ多数の成長因子等の新規機能ペプチドの産生を行ってきた。

九州大学工学研究院における世界を先導するタンパク質デザイン・加工技術

九州大学工学研究院では、組換えタンパク質の部位特異的・共有結合的修飾技術のノウハウを蓄積し、世界に先駆けて酵素修飾法(トランスグルタミナーゼ架橋法)をタンパク質工学分野に応用した実績を有する。
例えば、抗体断片scFvと酵素からなる融合タンパク質の試験管内調製技術(Biotechnol. Bioeng., 2004)、組換えタンパク質への脂質導入による細胞膜上へのアンカリング(Chem. Eur. J., 2011)、DNA(Chem. Commun., 2007; Chem. Eur. J., 2011)やRNA(Anal. Chem., 2012)と酵素の効率的なコンジュゲーション技術等を確立している。
工学研究院の既往の研究では、大腸菌で発現可能なアルカリホスファターゼをシグナル増幅ユニットとして利用してきたが、九大カイコ生産系を用いることで、微生物宿主では発現が困難な高活性酵素(ペルオキシダーゼ)を、抗体結合分子との融合タンパク質として組換え発現することに成功した(特願2015-032142)。
本技術は、診断薬開発に向けた概念実証試験を兼ねたものであり、カイコ・バキュロウイルス発現を用いて多様な抗原に対するタンパク質性診断薬を創出できる。

カイコ・バキュロウイルス発現により安定生産が確認されたヒトインターロイキン2(IL-2)に対し、酵素法による部位特異的修飾のための基質ペプチドタグをN末端あるいはC末端に導入した組換えヒトIL-2の発現と、市販IL-2と同等の生理活性が確認されている。

論文

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